【 太史慈の知略 】
  • 太史慈の履歴を見ていくと、意外な事に彼は武官としてではなく、文官としてのスタートを切っている。彼はまず東來郡の奏曹史(役職名不明。ただし、功曹史という役職があり、役人の功績を算出する部の役人の事であるから、それに類する役職かもしれない。)になっている。意外な感じはするが、かの甘寧も初めは会計係からスタートしている事を考えると、まずは役人になるための取っかかりとして何でも就ける役職に就いたというのが実際の所かもしれない。
    • (注)よく字を見れば、太史慈の役職である奏曹史というのは、【曹を奏す史】という事であり、つまり功績を上奏する役目であったと思われる。となると、下記の上奏文破り捨て事件で太史慈が上奏の使者に選ばれたのも道理。
  • 奏曹史として役所勤務している頃に、東來郡と青州の役所の間でトラブルが起り、東來郡と青州の双方で先に国に上奏した方が有利になるという事件が起きた。(要するに先に報告をした方が有利になるということ。)ところが青州側の方が先に上奏の使者が出ており、東來郡の方は後手に回ってしまった。そこで青州側の上奏が到着しているのかどうかを確認する使者として若干21歳の太史慈が選ばれたのである。
  • 太史慈は強行して洛陽に到着し、洛陽の南門(上奏文や献上物を謁見する場所)にやって来た所、丁度、青州側の上奏の使者が取り次ぎを願い出ているのを目にした。そこで太史慈は思いきった策略を実行する。
  • 太史慈は青州側の上奏の使者に
    • 「上奏文はどこにあるのか?」
    と聞く。すると青州の上奏の使者は太史慈が東來郡側の役人であるとは気がつかず、
    • 「車の上にあるよ。」
    と答えてしまった(よく考えりゃ結構おマヌケな使者さんである^^;)。すると太史慈は
    • 「大切な上奏文なんだから、間違えがないか確認した方がいい。ちょっと見せて見たまえ。」
    と言ってマンマと上奏文を取り出させる事に成功する。そこで太史慈は懐にしのばせていた刀でもってサッサと上奏文を破り捨ててしまった^^;。驚いたのは青州側の使者である。
    • 「なんて事をするんだぁぁぁ(T▽T)!!」
    と大声で喚き始めた^^;。それを見て太史慈は青州の使者を車の影に連れて行き、小声で話し始めた。
    • 「まあまあ。もしアンタが上奏文を私に渡さなかったら、私もそれを破れなかった訳だよ。だから罪は 上奏文を破いた私と、上奏文を渡してしまったアンタの二人にある。このまま騒ぎにしたら二人とも 処罰されてしまうぞ?いっそこのまま二人で逃亡するのが一番良かろう?どうだ?そうしないか?」
    と持ちかけたのである。青州の役人は太史慈の言葉に納得して(というかそれしか方法がなかっただろうが^^;)太史慈と青州の役人の二人はその日のうちに逃亡してしまった。嵌められたのは青州の役所である。出したはずの上奏文は届かず、再度上奏文を送り届けた頃には、すでに東來郡の上奏文が受け取られており、青州側はその事件について不利な判決を被る事となった。この事件で太史慈はその名を知られるようになったが、当然、青州の役所からは憎まれた。そこで太史慈は一旦、遼東に逃亡する事になる。
  • このエピソードで受ける太史慈のイメージは、一般的に太史慈のイメージとして知られている【忠義】というイメージからはほど遠いように思える。やり方が強引すぎるからだ。確かに太史慈の知略によって東來郡は救われた。だが、筋から言うならば、太史慈に与えられた仕事は上奏文が届いているかどうかを確認する事であり、明らかにやりすぎである^^;。気風的に言うと、孫堅や孫策のそれに似ている物を感じる。結局、このあたりが後に、許邵に評価されなくなる原因とも言える。また文官として働きながらも、その気質は明らかに武官向きであるとも言えるだろう。