【 孫綝抹殺 】
    • -クーデターは完全隠密行動で行う。-

    孫峻・孫綝の暗殺計画が悉く失敗に終わったのは,これが出来ていなかったからである。呂拠・滕胤の反乱も孫亮の孫綝抹殺計画も全ての失敗の原因はそこにある。彼らは孫峻・孫綝への反意がアリアリとしすぎていたのだ。そのため,クーデターを先読みされ逆に誅された。孫休が彼らより優れていたのは,孫綝への反意を全く表面に表さなかった事にある。いや,もしかしたら彼の事だから,無事政治ができるのなら,本気で孫綝に巨大な権限を与えても良いと考えていたのかもしれない。いずれにしても,孫綝は孫休のそうした姿勢に全く油断してしまった。
  • 孫休が孫綝抹殺を決意したのは,孫綝の荊州出向の意向を聞いてからであろう。中央にいればなんとか制御することも可能だったかもしれないが,孫綝が荊州に行ってしまうと,呉が孫休派と孫綝派に二分されてしまう危険性が大であった。それだけは避けなくてはいけない。孫休はまず孫綝抹殺要員を集める。まず第一候補は,孫綝の酒に酔っての失言を孫休に告げ口した張布である。張布は以前からの言動を見ても,孫綝への反意は明らかであった。しかし,張布は文官であり暗殺実行犯には向かない。そこで白羽の矢が立ったのが,丁奉である。丁奉は,孫綝抹殺計画の実行計画を立てる。まず,孫綝を一人にする事。孫綝には一族・一味の者も多く,下手に事を起こせば逆にこちらがやられてしまう。そこで,丁奉は孫綝だけを呼び寄せる事ができる口実を考えた。臘(ろう)の祭(冬至の後に行われる祖先などの神々を祀る祭)で群臣が集まる時に,その目の前でやってしまおう,というのである。
  • 258年12月8日,孫綝は不機嫌だった。臘の祭に出席するように,孫休から使者が来るのだがどうも気が乗らない。こういう事には妙に勘の良い彼は,病気を理由に欠席しようとするのだが,何回も出席を促す使者は来るし,どうにも断れなくなった。そこで孫綝は,兵士を整えておいて火事を起こさせて,それを理由に退席しようと考える。果たして火事が起こって孫綝は,退席しようとする。ここからは実況中継でお送り致します。
    • 孫綝 『私の役所で火事が起こったようですので,退出したく思います。』
    • 孫休 『まあ,そう言わずに。役所の外にもなぜか兵士がいるみたいですし。彼らが火事に対応してくれるでしょう。丞相自ら出向く事もありますまい。』
    • 孫綝 『(ギクッ)い,いや私が出向いて火事の原因を探らせましょう。』
    • (孫綝退出しようとすると,丁奉・張布が合図を送り孫綝を縛り上げさせた。)
    • 孫休 『孫綝。お前は国家の威光を臣下の身でありながら自らの手に握り,反逆の企みを抱いておる。もはや許す訳にはいかぬ。死一等の罪に処する。』
    • 孫綝 『ど,どうか死一等を減ぜられますように!!交州へ流刑にしてほしく思います。死罪だけはお許し下さい!!』
    • 孫休 『ならお前はなぜ,滕胤と呂拠を交州への流罪にせず,殺害したのか?』
    • 孫綝 『な,なら宮廷の奴隷として,一命だけはお助け下さい!!』
    • 孫休 『ならお前はなぜ,滕胤と呂拠を奴隷にせず,殺害したのか?』
    • (孫休,孫綝の首をはねる。)
    • 孫休 『反逆の徒,孫綝はここに死罪とした。しかし,孫綝の計り事に荷担した者も,降伏すればみな放免とする。』
  • 宮廷の外にいた孫綝の兵士たちも,主の孫綝が殺されたとなるともはや戦う気もなく,ほとんどの者が降伏した。さらに孫綝一族の孫闓は魏に降ろうとしたが,追っ手をかけて誅殺。その他の孫綝一族も皆殺しにした。孫休の孫綝一族への仕返しはまだ終わらない。孫休は孫綝だけでなく孫峻の墓を暴き,副葬品をはぎ取り棺桶を削った後で埋め戻した。孫休は孫峻が妻の母親である孫魯育を殺した事を忘れた訳ではなかったのである。まだまだ報復は続く。孫休は以後,孫峻・孫綝を同族とは認めず,彼らを故峻・故綝と呼んだ。こうして孫休の孫綝抹殺計画は成功を収めた。またこの功績により,張布は中軍の督を加官され,丁奉は大将軍となったのである。